※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「月城さん、愛多きイケオジ路線は辞めるつもりなんですか?」
 
 紗良の隣に座っていた木藤がすかさず月城を茶化していく。

「いんや。これからも愛を模索するつもり。だからよろしくね、芙美ちゃん」

 月城はしたり顔で無精髭の残る顎をさすった。ここはリーダー同士。気心がしれた二人ならではの歯に衣着せぬやりとりだ。

「うわー。それ、セクハラですよ。次言ったらコンプラ違反できっちり申告しますからね?」
「それは勘弁してよ」

 月城は木藤の忠告をはははと大きな声で笑い飛ばした。木藤からの軽口を飄々と受け流す月城からは、豊富な女性経験からくる余裕が窺えた。

「あ、課長」

 木藤が静流が倉庫から戻ってきたのをめざとく発見し手招きする。

「高遠課長、月城さんにぜひ妻帯者の良さを教えてあげてください」
「……いくら語ったところで本人にその気がないなら馬の耳に念仏ってやつですよ」
「うわあ!!言うようになったなあ!!」

 月城はどこか嬉しそうにしみじみと言うと、静流の肩に腕を回し昼ご飯の算段をつけ始めた。
 煌陽にすっかり馴染んだ静流と二課の面々の良好だった関係に亀裂が生じる出来事が起ころうとは、この時紗良は想像すらしていなかった。

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