※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「高遠課長、今よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
木藤がノートパソコンを抱えながら声を掛けると静流は快諾した。デスクの上に広げられた資料とノートパソコンに目をやりながら、木藤の話に耳を傾けていく。
「先週ヒアリングした新規顧客の件なのですが、あの工場の規模なら従来品ではなくこちらの新規格のセンサが合うのではないかと……」
「そうですね……。私も木藤さんの案に賛成です。数量が揃えられるかが問題でしょうか。生産元に在庫を聞いてみましょう」
「はい。お願いします」
「先週話していた運送会社の新輸送拠点の機器受注はどうなりました?」
「来月には正式に受注が決まりそうです」
「そう。それは良かった」
ノートパソコンを間に挟んで微笑み合う二人は本当にお似合いだった。
木藤が復帰してから二課の雰囲気は随分と和らいだ。木藤が恭順の意を示したことで、対立構造は消え再び平和が訪れたのだ。
木藤は平日の残業を減らすようになり、休日出勤はほとんどなくなった。手元に残された顧客への営業を増やしたおかげか、顧客単価が上がり、成績も持ち直し始めた。
「はあ……」
課長のデスクから戻ってきた木藤は頬杖をつき、大きなため息をついた。熱のこもった眼差しを遠くから静流に向けている。