※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
クリスマスの夜、定時で退社した紗良はみなとの丘駅の前にある人気パティスリーで予約したケーキを受け取った。
二人でも食べ切れる小さめのホールケーキはクリスマス限定のチョコレートとラズベリーをふんだんに使ったパティシエの力作だ。お紅茶との相性もぴったりの一品である。
すっかり日が暮れた街には家族の元へと急ぐサラリーマンやサンタの扮装をしたケーキの売り子が立っている。
誰も彼もがクリスマスムードで浮かれていた。紗良も間違いなくその一人だった。
ふんふんと下手くそな鼻歌を歌ってしまうほど足取りは軽い。
(あ、静流さんだ……。今帰りかな?)
人混みの中にいつも静流が着ている濃紺のチェスターコートがチラリと見え、紗良は歩調を少し早めた。
電車に乗る前にケーキを調達したことを静流に報告して行こうと思い立ったのだ。
クリスマスということもあり課員の殆どが定時退社した中、静流は役職会議が長引いたため会社に残っていた。定時から一時間も遅れたが、ようやく退社することが出来たのだろう。
静流はみなとの丘駅のデパートの地下食品売り場に寄り、デリセットを買って帰る手筈になっていた。
人混みに流されながらも、紗良は静流を追いかけた。しかし、あと少しというところでタイミング悪く赤信号に阻まれてしまう。
ようやく信号を渡り終えた時には、ひとりで歩いていたはずの静流の隣に誰かが寄り添うように立っていた。