※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「紗良さん、お帰りなさい。先に帰ったと思っていたのに遅かったんですね」

 真っ直ぐ家に帰る気になれず適当に時間を潰してから帰宅した紗良を、静流は何食わぬ顔で出迎えた。
 キッチンからは食欲をそそる良い匂いがする。静流は特製のじゃがいものポタージュを作って紗良の帰りを待っていた。手作りならではの繊細な味付けは実に紗良好みだけれども、今はとても喜ぶ気になれない。
 呑気に鍋を掻き回している横顔に数時間前のあの出来事に関してどういうつもりなのか問いかける。

「何で……受け取ってあげなかったんですか?」
「そうですか。木藤さんとのやりとりを見られていましたか……」

 何を目撃されたのか察した静流は淡々と言うとコンロの火を消し紗良に向き直った。

「受け取ってあらぬ期待を抱かせる方が残酷でしょう?」
「でも!!静流さんは本当は独身なのに!!」
「木藤さんの気持ちにはなんとなく気がついていましたよ。だからこそプレゼントの受け取りを遠慮したんです」
「な、んで……!!」

 知っていたならもっと他にやり方があったのではないのか。
 木藤は泣いていた。受け取ってもらえなかったプレゼントを抱え、静かに泣いていた。
 静流を責めるべきではないと頭では分かっていても、傷ついた木藤のことを思うと非難せずにはいられなかった。
< 77 / 210 >

この作品をシェア

pagetop