※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。


 次の日、紗良は静流と会わないように早めに起床し先に家を出た。
 仕事中も静流と顔を合わせないように課長のデスクから離れた位置に座る。避けられている気配を察知したのか、静流もあえて紗良に近寄ってくることはなかった。
 絵に描いたような大人の対応をされ、まるで自分だけが駄々をこねている子供のよう。

「三船さん、お昼なんだけど今日は外に出ない?」

 お昼休みになり紗良は木藤に連れられテラスにやってきた。今日は海風もなく、雲ひとつない快晴だった。
 晴れの日はテラスから海が一望できる。遠くに見える水面はキラキラと光り、陰鬱な面持ちの二人とは真逆の光景だった。
 二人は日当たりの良いベンチに腰掛けた。お昼を食べにきたはずなのに、いつまで経ってもお弁当の包みは開けられようとしない。

「昨日はハンカチを貸してくれてありがとう。洗ったらすぐに返すね」
「返すのなんていつでもいいですよ」
「恥ずかしいところを見られちゃったよね?」

 紗良はブンブンと首を横に振った。木藤の勇気を賞賛こそすれ、恥ずかしいなんて思うはずない。

「日頃のお礼のつもりでプレゼントを渡そうとしたんだけど、課長には下心を見抜かれちゃったみたい」
 
 木藤は悪戯が見つかった子供のように舌をチロリと出して戯けた。
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