※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「わ、私……。悲しくて……!!だって我孫子さんに二課に引き抜いてもらわなかったら……っ……会社辞めてたからぁ……!!ああもう……!!最後だから絶対に泣かないようにしようと思っていたのに!!」
紗良はそう言うと人目もはばからず、わんわんと泣き出してしまった。
「……完全に酔ってますね」
「そうですね」
吉住と静流は二人して深く頷いた。情緒の乱高下は酔っ払いの数ある特徴のひとつだ。
「ま、三船さんも色々あったもんね……」
木藤は泣きじゃくる紗良を抱き締めると、聖母のように慈愛に満ちた表情でよしよしと頭を撫でた。
木藤の優しさに触れた紗良も次第に酔いが冷め落ち着きを取り戻していく……なんて都合の良いことがあるはずもなく。紗良は酒を飲んでからものの数分で寝落ちした。
「あ、我孫子さん二次会どうします?ご希望ならこれから探しますけど」
「いやー。もう還暦手前の身体に二次会はキツいよ。一次会でお腹いっぱい。勘弁して」
我孫子は吉住にそう言うとこれでもかと太鼓腹を撫でた。我孫子の鶴の一言で送別会は一次会で解散となり、各々が帰り支度を始めた。……眠ってしまった紗良を除いて。