※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
静流は主賓の我孫子をタクシー乗り場まで見送りにやってきた。窓越しに固い握手を交わす。
「じゃ、高遠くん。あとはよろしく頼むね」
「はい」
我孫子がよろしくと頼んできたのは飲み会の後始末だけではない。静流は走り去っていくタクシーの車体が見えなくなるまで頭を下げた。
(最後まで掴み所のない人だ……)
静流は心の中で独り言ちると後ろを振り返った。
あとは、主役を差し置いてヘロヘロになった紗良をどうにかして家まで連れて帰るだけだ。両脇を吉住と木藤に支えられた紗良はうつらうつらと船を漕いでいる。
「どうします?このままタクシー乗せちゃいますか?」
「そうですね。彼女と同じ駅を利用しているので、家まで送って行きますよ」
真実を言うのであれば、同じ駅どころか同じ家に住んでいる。自分が連れて帰るのが一番手っ取り早くて楽だろうと思った静流は送迎役に立候補した。
「あ、俺も乗っていっていいですか?隣の駅なんで。正直、酒飲んだ後に電車で帰るのダルいんで」
「吉住!!あんたは少しは遠慮というものを知れ……!!」
「構いませんよ。何人乗ってもタクシー代は変わりませんから」
吉住の素直な言い分に自身も心当たりのある静流は快諾した。
三人でタクシーに乗り込んだ。助手席には吉住、後部座席には静流と紗良。紗良は扉に寄りかかり大人しく寝ていた。
一次会では飲みたりない課員と共に飲み屋をハシゴするという木藤に見送られ、三人を乗せたタクシーが発進した。