※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
送別会の開催されたみなとの丘駅から、家までは一時間ほど。吉住は紗良の財布の中から免許証を拝借し、地図アプリと見比べながらマンションの場所を運転手に伝えていった。
「あ、そこのマンションみたいっすね」
吉住の指示に従い、タクシーが見慣れた紗良と静流が住むマンションに横づけされていく。
「俺も手伝いましょうか?」
「いいえ、一人で大丈夫です」
静流は財布からいくらかお札を出し吉住に渡すと、紗良をタクシーから降ろし細腰をしっかりと支えた。
「ほら、三船さん。立ってください」
「はひ……」
「じゃあ、お疲れ様でーす」
一度断られたら食い下がらないのが今時の若者らしい。吉住は座席から降りようともせず、そのまま隣の駅方面へと走り去っていった。
タクシーが見えなくなると、静流は改めて紗良に尋ねた。
「紗良さん、大丈夫ですか?」
「う……ん……」
「大丈夫ではないやつですね、わかりました」
あっちこっちとよろける酔っ払いの相手に剛を煮やした静流は紗良を横抱きにして抱えあげた。紗良のトートバッグを肩に引っ掛け、エレベーターに乗り部屋の前まで連れて行く。
玄関のシリンダー錠を開け、靴を脱がして部屋の中に入っていく。リビングへと続く廊下にある扉のひとつが紗良の自室だ。
静流は紗良をベッドに静かに降ろした。いつぞやとは逆の立場だ。
静流は紗良のように安直に服を脱がすような真似こそしないが、それでも物珍し気に部屋の中を見回した。