※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「紗良さん、離してください」
「やーだよ!!」
「紗良さん!?」
紗良はそう言うと静流の腰辺りに抱きつき、あろうことかベッドの中に引きずりこんだのだった。
「ふわふわだあ……!!」
紗良はキャハハと笑いながら整髪料がついている髪を撫で回しぐしゃぐしゃと弄んだ。解放される時を待ち、されるがままじっと大人しく耐えていると今度は健やかな寝息が聞こえてくる。
(参ったな……)
ベッドの上で完全に身動きできなくなった静流は、唯一自由になる右腕でひとまず眼鏡を外した。首は完全に紗良にホールドされている。左腕は不用意に彼女に触れないように頭の上。
起こさないように抜け出すには相当骨が折れそうだと静流が覚悟した時、『何か』が額の上に落ちてきた。
「しゅう……へい……」
『何か』の正体は涙だった。紗良は感情に任せてわんわん泣くのではなく、じっと悲しみに耐えるように涙を流していた。
(しゅうへい……?)
営業二課の課員の中に『しゅうへい』という名前の男性はいない。一体誰を想い泣いているのだろうかと考えを巡らせていく。
静流は無性に男の正体が知りたくなった。