※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
三船紗良という人は不思議な女性だった。
突然やって来た見知らぬ男に同情し、ルームシェアを承諾する優しさを持ち。
自身の夢のためにダブルワークをする頑張り屋。
そして、恋愛はもういいと言いながら、男性の名前を口にし涙する。
「泣かないで、紗良さん……」
静流は目尻の涙をそっと拭ってやった。
どうしてだろう。彼女にはずっと笑顔でいて欲しかった。大好きな紅茶を飲んで、屈託なく笑う彼女をずっと見ていたい。
女性とルームシェアをしようと考えたのは、単なる思いつきだった。今思えば相手の女性がどんな人かもわからない状況でよくぞ実行に移せたものだと思う。あの時、静流は心身ともに疲弊し、本当に参っていた。だからこそ、紗良が淹れてくれた温かい一杯の紅茶に救われたのだ。
紗良のことをもっとよく知りたいと思う一方で、知ってどうする?という諦めにも似た感情に襲われる。
……他人の幸せを壊してしまった自分にこれ以上の幸せを望む資格はないというのに。
抱きしめて慰めてやりたいなどと、分不相応でおこがましい願いはいっそのこと捨て去ってしまいたい。
どうか目覚めた時には泣いていたことを忘れていますように。
静流は祈るようにして、紗良の頬にかかる髪を掬い上げた。