※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。


 空が白み始めた夜明け頃。レースカーテンから透ける朝日を顔に浴び、紗良はひっそりと目覚めた。
 起きた瞬間から頭が痛かった。ああ、これはやってしまったなと、げんなりする。起き上がるのが俄然億劫になり再び目を瞑った。今日は土曜日。スピカの勤務日でもない。二度寝したって誰にも怒られない。……静流には呆れられるかもしれないが。
 惰眠を貪ろうと心に決め寝返りを打つと、なにやら温かくて大きい物体に鼻頭がぶつかった。

「し、静流さん!?」
「起きました?」

 静流は昨夜と同じスーツを着たまま紗良の隣に横たわっていた。寝起きの掠れ声がセクシーだな……と思っている場合ではない。
 紗良は狭いシングルベッドの上を壁際まで目一杯後ずさりした。

「え、あ!?なんで!?」
「酔った貴女を部屋まで運んだ後、にゃにゃ丸と間違えて離してくれなかったんですよ。乱暴するわけにもいかないし」

 静流はあくびを噛み殺した。狭いシングルベッドの上で一晩明かしたのだ。さぞや寝苦しかっただろう。

「にゃ、にゃにゃ丸……?」

 静流の髪の毛の乱れようが目につく。明らかに寝癖以外の原因があった。

「夢の中のにゃにゃ丸はさぞや可愛かったことでしょうね?」
「す、すみませんでしたーーーー!!」

 皮肉とも受け取れる静流のひとことで紗良は全てを理解した。逃げるにゃにゃ丸を捕まえグリグリもふもふと構い倒すのは数あるストレス解消方法のひとつだ。まさかあれを?信じられない!

 紗良はベッドに額を擦り付け何度も静流に謝罪したのだった。

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