大江戸ガーディアンズ
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彦左の案内で、与太は見世の奥にある内所へ通された。
其処にはお内儀だけがいた。
「ささ、どうぞ、中へ……申し訳のうござんすが、主人は今留守にしておりやしてね」
急な訪いであったにもかかわらず、お内儀は如才なく与太を座敷に招じ入れる。
与太は内所に入ると、畳の上に腰を下ろした。
吉原の大籬の一つとして名高い久喜萬字屋は、主人である長兵衛よりも妓たちから「お内儀さん」と呼ばれている、このおつたで保っている。
見世で滅多と見ることのない長兵衛は、いわゆる「髪結いの亭主」だ。
町家言葉のおつたは遊女でも女郎でもなく、そもそもは吉原に伝手のあった浅草の料理茶屋の娘だった。
その店の手伝いをしていたおつたの客あしらいの見事さに目をつけた久喜萬字屋の先代が「是っ非とも我が倅の女房に」と望んで、以後この家の稼業にどっぷりと浸かることと相成った。
「伊作親分の名代って……岡っ引きの旦那があたしらに、一体全体何の御用でござんすか」
おつたが莨盆を引き寄せながら与太に尋ねる。
「本日は、ちょいとおめぇさんの見世に頼みてぇことがあって来た」
おつたは盆の上の莨入れを開けて中の刻み莨を指で摘んで丸めつつ、与太の話を聞く。
「おいらぁ回りくでぇこった、性に合わねぇからよ。ずばり云うぜ」
丸めた刻み莨を雁首の火皿に焼べるため、煙管を取ろうとしたおつたの手が止まった。
「——奉行所の『御用』のために、おめぇさんとこの見世の者を貸してくんねぇか」
その刹那、おつたの目が鋭く尖った。
彦左の案内で、与太は見世の奥にある内所へ通された。
其処にはお内儀だけがいた。
「ささ、どうぞ、中へ……申し訳のうござんすが、主人は今留守にしておりやしてね」
急な訪いであったにもかかわらず、お内儀は如才なく与太を座敷に招じ入れる。
与太は内所に入ると、畳の上に腰を下ろした。
吉原の大籬の一つとして名高い久喜萬字屋は、主人である長兵衛よりも妓たちから「お内儀さん」と呼ばれている、このおつたで保っている。
見世で滅多と見ることのない長兵衛は、いわゆる「髪結いの亭主」だ。
町家言葉のおつたは遊女でも女郎でもなく、そもそもは吉原に伝手のあった浅草の料理茶屋の娘だった。
その店の手伝いをしていたおつたの客あしらいの見事さに目をつけた久喜萬字屋の先代が「是っ非とも我が倅の女房に」と望んで、以後この家の稼業にどっぷりと浸かることと相成った。
「伊作親分の名代って……岡っ引きの旦那があたしらに、一体全体何の御用でござんすか」
おつたが莨盆を引き寄せながら与太に尋ねる。
「本日は、ちょいとおめぇさんの見世に頼みてぇことがあって来た」
おつたは盆の上の莨入れを開けて中の刻み莨を指で摘んで丸めつつ、与太の話を聞く。
「おいらぁ回りくでぇこった、性に合わねぇからよ。ずばり云うぜ」
丸めた刻み莨を雁首の火皿に焼べるため、煙管を取ろうとしたおつたの手が止まった。
「——奉行所の『御用』のために、おめぇさんとこの見世の者を貸してくんねぇか」
その刹那、おつたの目が鋭く尖った。