大江戸ガーディアンズ
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


彦左の案内(あない)で、与太は見世の奥にある内所へ通された。

其処(そこ)にはお内儀(かみ)だけがいた。

「ささ、どうぞ、中へ……申し訳のうござんすが、主人は今留守にしておりやしてね」

急な訪いであったにもかかわらず、お内儀は如才なく与太を座敷に招じ入れる。

与太は内所に入ると、畳の上に腰を下ろした。


吉原の大籬(おおまがき)の一つとして名高い久喜萬字屋は、主人である長兵衛(ちょうべえ)よりも(おんな)たちから「お内儀(っか)さん」と呼ばれている、このおつた(・・・)()っている。

見世で滅多と見ることのない長兵衛は、いわゆる「髪結いの亭主」だ。

町家言葉のおつたは遊女でも女郎でもなく、そもそもは吉原に伝手(つて)のあった浅草の料理茶屋の娘だった。

その店の手伝いをしていたおつたの客あしらいの見事さに目をつけた久喜萬字屋の先代が「()()とも我が(せがれ)の女房に」と望んで、以後この家の稼業にどっぷりと浸かることと相成(あいな)った。


「伊作親分の名代って……岡っ引きの旦那があたしらに、一体全体何の御用でござんすか」

おつたが莨盆(たばこぼん)を引き寄せながら与太に尋ねる。

「本日は、ちょいとおめぇさんの見世に頼みてぇことがあって来た」

おつたは盆の上の莨入れを開けて中の刻み莨を指で(つま)んで丸めつつ、与太の話を聞く。

「おいらぁ回りくでぇこった、性に合わねぇからよ。ずばり云うぜ」

丸めた刻み莨を雁首の火皿に()べるため、煙管(きせる)を取ろうとしたおつたの手が止まった。


「——奉行所(おかみ)の『御用』のために、おめぇさんとこの見世の(もん)を貸してくんねぇか」

その刹那、おつたの目が鋭く尖った。

< 126 / 316 >

この作品をシェア

pagetop