大江戸ガーディアンズ
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——遅い、遅すぎる……

美鶴は妙な胸騒ぎがしていた。


気まぐれな(ところ)のある羽衣は、ふらりと「部屋」に入ったまま出てこないことはあっても、御座敷の近江守をこないにまで待たせることは絶対にない。

羽衣は自らの素性は語らぬが、あの凛とした静謐な佇まいは何処(どこ)か武家のそれを彷彿とさせた。
我が身が武家に嫁入りして、さらにその思いを強くした。

——和佐殿の感じによう似てござりまする。


その和佐である「おまつ」であるが、番頭新造は滅多なことでは御座敷には出ぬため、隣の部屋から「護って」もらっている。

ゆえに、残念ながらその「艶姿」は兄である兵馬は見れずじまいだ。


「胡蝶、(それがし)の話に上の空じゃが……もしかして、退屈しておるのか」

広島新田藩 次期藩主・浅野 粂之助——「若様」に身を変装(やつ)した兵馬が、本日一日限りの久喜萬字屋・遊女「胡蝶」である美鶴の顔をぐっと覗き込む。


——旦那さま、(ちこ)うござりまする。人前でありまするぞ。

美鶴はやんわりと後退(あとずさ)った。

「いえ、まさか、さようなことは……若さまと久々にお会いしなんして、わっちは夢心地のあまり、ぽおっとしておりんす」

そして、ふんわりと微笑んでみる。

すると、兵馬の目が熱を帯びて輝いたかと思えば、ずい、と間を詰めてきた。

——しまった……


さらに、あろうことか耳元に口を寄せて、

「『若さま』か……懐かしいな」

と、囁くではないか。

美鶴は振袖新造の舞ひつるだった頃、兵馬を「若さま」と呼んでいた。


同じ御座敷に近江守がおられるゆえ「若さま」と呼んでいたが、遊女が娼方(あいかた)を呼ぶときの「(ぬし)さん」にすることにした。

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