大江戸ガーディアンズ
美鶴は入り口で履き物を探した。
逃げてきたときは何も履かずに出たのだが、廓の妓は足袋を履かずに真冬でも裸足のまんまだ。
素足の美しさも器量のうちの一つと云われ、美鶴も「舞ひつる」の時分にはずいぶんと気を遣ったものであった。
されど、火事の最中に裸足で歩き回るのは酔狂である。
美鶴は抜き捨ててあった男物の下駄を突っかけた。
そして、脇目も触れず真っ直ぐ廻し部屋へと向かった。
生まれてすぐに預けられた子ども屋から、祖母も母も世話になった久喜萬字屋に引き取られたのは十歳だったろうか。
それからずっと暮らしていた此処は、美鶴にとっての「実家」である。
されども、此度の火事で、これらすべてが燃え尽くされてしまう。
しかしながら、久喜萬字屋は幾度となく火事に見舞われてきた。
そして、其の都度新たな見世に造られてきたのだ。
しかも、図面はちゃんと別の処に置いてあるため、代々建物の間取りはほぼ同じだ。
たとえ火事になったとしても——御公儀によって必ず「見捨てられる」吉原の廓では「よくあること」なのだ。