大江戸ガーディアンズ
「だ、旦那さまはわたくしの言よりも姑上様の方を……っ」
和佐の声が、キン、と響くと共に上擦った。
自ずと、胸に抱えた行儀小紋が左右の手でぎゅーっと握られる。
「いやいや、さようなことを云うてはおらぬ」
主税はやんわりと妻の手から力を解いた。
着物に皺が寄れば、使用人に命じて火熨斗を当てて伸ばさせねばならなくなる。
もしも、それを母・千賀に見つけられた暁には、一言も二言も聞きとうない小言を聞かされるに相違ない。
「……姑上様は、
『そもそも、与力の御役目は代々続くものではない。
ゆえに、本田とて虎視眈々とその御役目を狙う者からいつ足元を掬われてもおかしゅうはないのじゃ。
さればこそ、太郎丸は我が本田家が与力の座を守り通すためにも、何としても湯島へ行かねばならぬ』
と、仰せになってござりまする」
宿直から帰ったばかりゆえ、これよりしばらく寝む算段の夫の肩に、薄い寝間用の着物を掛けながら和佐は告げた。
すぐさま前を合わせた主税は、手早く細紐を結び帯を締める。
「母上の仰せは……至極真っ当な言にてはござらんか」