サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

***

「当直明けんとこ悪いっ、今日の当直代わってくれないか?」
「何かあったんですか?」
「嫁さんが産気づいた」
「えっ?!」
「逆子気味だから、難産になりそう」
「帝王切開は?」
「本人が頑張れるとこまで頑張るって聞かなくて」
「分かりました、いいですよ」

葛城先輩の二人目のお子さん。
流産気味だったのが漸く落ち着いたかと思ったら、一昨日から逆子気味になりつつあると言っていた。

「パパも頑張って下さいね~」
「おぅ」

先輩にはいつもお世話になってるから、当直を代わるくらいなんてことない。
五日間自宅に帰れない事なんてざらで、仮眠室が自宅だと勘違いしそうなくらい私物化してる。

「あ、それと、来月の学会も頼んでいいか?」
「いいですよ、新生児の間は奥さんも寝不足気味だと思いますし」
「マジで助かる。日中の手術なら幾らでも代わるから」
「ハイハイ、お気遣い有難うございます~」

売店で買ったサンドイッチを頬張りながら学会に使う論文を書く。
手術と回診以外の時間は研究と論文に時間を費やす日々。

そして、海外の学会にも胸部外科医として頻繁に出席するようになっていた。


彼と別れて一年。
すっかり医師としての貫禄も出てきたようで、若い医師や研修医が私の所に論文を借りに来る。
少し前の私みたいに。

***

『彼は元気にしてますか?』
『はい、元気にしてますよ』

彼と別れたあとも彼のことが忘れられず、ずっと気になってしまって。

酒井さんにこっそりメールで彼の体調を尋ねている。
『視力はまだありますか?』とはストレートに聞くことが出来ない。
『失明した』と返信が来たら、じっとしていられなくて彼のもとに行ってしまいそうで。

だから、遠回しに元気にしているかどうかだけ聞くようにしている。
今日も彼は元気に過ごしているらしい。

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