サイコな本部長の偏愛事情
施錠された部屋でも鍵さえあれば、再び開く

「酒井、例の事務所と連絡は取れたか?」
「はい、来週月曜日の十三時に、あちらの事務所に伺うことになっています」
「そうか。手抜かりの無いように契約書のチェックを頼む」
「はい」

これまでは、自社の社員を全面的に広告塔に使うことで、よりリアル感を打ち出したコンセプトだったが、現在のモデルでもある夏目千佳(元彼女)も既婚者となる予定だし、年齢的にもCAとしての初々しさが無くなって来た。

この機会に、広告塔を別の人物に差し替えようと少し前から準備していて、漸く契約にまで漕ぎつけた。
ASJの広告塔として白羽の矢を立てたのは、不動の人気を誇る女優の来栖 湊。
これまで幾多のスキャンダルが浮上しても、彼女の人格がそうさせるのか、常に明るいイメージに塗り替えられる。

更には先日、婚前旅行と思われる極秘旅行に当社をご利用頂いたという下地処理が既に行われていることもあり、このチャンスを逃す手はない。

彼女の経済効果は計り知れないくらい凄くて、新商品のお菓子であれば数日で数億。
化粧品であれば、発売前から予約が殺到するらしい。
そんな彼女をASJの顔として契約できれば、新路線を開拓するのにも大幅に有利になること間違いなし。

大手自動車会社と現在契約していることもあり、その自動車会社のレンタカー事業部との連携も込みで契約出来れば、経済効果は大幅にアップするだろう。

いつこの眼が視力を失ってもいいように、今出来ることを全力で取り組むしかない。

「痛みますか?」
「いや、……少し歪む感じがするだけだ」

眼を休ませようと両手で覆うと、心配した酒井が尋ねて来た。

「温めたタオルをお持ちします」
「……頼む」

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