サイコな本部長の偏愛事情

***

「今日、休みなのか?」
「はい」
「羨ましいな。お前が急に消えたせいで、こっちは当直率が大幅にアップしたってのに」
「………すみません」

古巣とも言える、東京白星会医科大学の胸部外科に勤務する医師で、一つ歳上の先輩に相談事があって三カ月ぶりに医局を訪れた。
彼の名前は葛城 潤(三十歳)。
財前さんが大人の香りを漂わせるクールなイケメンなら、この葛城先輩は典型的な王子様タイプ。
財前さんが妖艶な雰囲気なら、彼はキラキラのオーラがハンパないタイプだ。

どちらもイケメンだけど、個人的には王子様より大人の魅力の方がミステリアスで私の好み。
目の前にこんなイケメンがいてもさほどときめいたりしない。
医大時代から仲がいいというのもあって、免疫が出来ているのかもしれない。

「メールで言ってたやつは、コレだ」
「ありがとうございますっ」
「知り合いが眼窩腫瘍にでもなったのか?」
「……はい」

研究熱心の先輩は、胸部外科が専門だけど、ER(救命救急室)に興味があるらしくて、以前から色んな論文を読み漁っている。
そんな彼ならもしかしたら、専門外だけど外国の最先端治療にも詳しいんじゃないかと思って。
本当はまだ来たくなかったここ(元彼がいる医大)に、足を踏み入れようと思ったきっかけだ。

「戻るつもりはないのか?……腕が腐るぞ」
「ぼちぼち戻ろうか悩んでますけど、まずは目の前のこの問題が解決しないとかな」
「……恋人か?」
「え?」
「お前がここに来ようとまで気持ちを変えた奴だから」

先輩には何でも話して来た。
恋愛だけじゃなく、車を購入する時も部屋を見つける時も一番最初に相談したのは彼だ。

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