隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 言葉が続かなかったのは、ルドルフ以外の誰にこういったことを頼むべきか。その相手がまったく浮かばなかったからだ。
「他の、誰かに……」
「その誰かが誰だと聞いているんだ」
 ルドルフはアルベティーナが逃げないように、また彼女の手をぐっと握りしめる。
 だがアルベティーナにはその『誰か』の心当たりが無い。誰かいないか、と必死に考えを張り巡らせてみるものの、さっぱり出てこない。
 そもそも、兄たちに頼むような案件ではない。となれば他の男性。頭に思い浮かんだのは使用人たちの顔だが、彼らがそれを引き受けてくれるとは到底思えない。アルベティーナが他に知っている男性とすれば、騎士団に所属する男性たち。
 その中でもわりと一緒に仕事をこなすことが多いのは。
「イリダル……、さん。くらいですかね?」
 アルベティーナが顔をしかめたのは、ルドルフによって左手を力任せに握られたからだ。
「お前は、バカか。イリダル? あいつはダメだ。お前、あいつのことが好きなのか?」
 イリダルのことが好きであったなら、最初から彼に頼む。むしろルドルフに頼まない。
「ち、違いますよ。第一希望は団長ですけど、団長に断られてしまったら……。さすがにお兄さまたちには頼めないですし、そうなったら、イリダルさんくらいしか思い浮かばなかったんです」
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