【受賞】隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
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 バルコニーから飛び降りて、真新しい真っ白なドレスを翻しながら走っているアルベティーナ。裾を持ち上げて、汚れないようにと気遣いはしているのだが、走りにくいヒールで走っているため、恐らく泥は跳ねていることだろう。
 あのアンヌッカの怒りの形相が脳内に浮かんだが、それよりも女性の悲鳴が気になっていた。何か、変な事件に巻き込まれていなければいいのだが。
(こっちかしら?)
 気配を探るために、一度立ち止まり呼吸を整える。どうやらここは色とりどりの花が咲き誇る庭園のようだ。しかも、裏門に通じる方の庭園。つまり、裏庭だろう。
 大きく首を振って周囲を見回す。王城から遠のいているため、そこから漏れだす光は届かない。あるのは頼りない星の光。それでも暗闇の中走ってきたからか、薄暗い闇の中でもどこに何があるのかの認識はできるようになっていた。
「んぅ、やめて、離して」
「暴れるな、大人しくしろ」
「おい、口を押さえろ」
(えっ、もしかして……、これって誘拐現場というものでは……)
 どうやら数人がかりで一人の女性を馬車に押し込めようとしているところだった。どこからどう見ても、あの女性は自ら望んで馬車に乗ろうとしていない。アルベティーナにだってそれくらいのことはわかる。
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