隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「お父さま。おかしなことを聞かれるのですね。エルッキお兄さまも、セヴェリお兄さまも。私にとっては大事な兄です。その兄のどちらかが好きだなんて。二人とも大好きに決まっているではありませんか」
 それはアルベティーナの本心だ。二人とも大事な兄。年は少し離れているけれど、幼い頃からアルベティーナを可愛がり、優しく接してくれた二人の兄。その彼らのどちらかを選ぶだなんて、あってはならないことだと彼女は思っている。
(おかしなお父さま。どうして突然、そのようなことを聞かれたのかしら)
「そうだな。お前にとっては、どちらも大事な兄だな。私にとって二人とも、大事な息子であるように」
「そうですよ。もう、お父さまったら」
 そこでアルベティーナは頬を膨らませて、馬車の窓に目を追いやった。窓にはカーテンが引かれているため、外を見ることはできない。外を見たとしても、きっと暗くて何も見えないだろう。
 突然、コンラードがこのようなことを尋ねたことに疑問を持ちつつも、やはり先ほどの誘拐未遂事件で気疲れしてしまったのか、アルベティーナは静かに目を閉じて、馬車の揺れを感じているのだった。

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