隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 そして、そんな噂が世に広まっている中。下の兄セヴェリが久しぶりの長期休暇を取ることができたため、このヘドマン領へと戻ってきたのだ。アルベティーナがセヴェリと会うのも一年近くぶりのこと。デビュタントで会ってから、その次の年にも一回あっただけ。それだけセヴェリの騎士の仕事が忙しいのと、アルベティーナが王都に足を運ばなかったのと。理由は双方にある。
「ああ、ティーナ。久しぶりだ。元気だったか?」
 再会して早々、アルベティーナは暑苦しい兄から暑苦しい抱擁を受けた。
(セヴェリお兄さまったら、年々、お父さまに似てきたような気がするわ)
 それは容姿だけでなく、この暑苦しさも含まれる。
「今日は、どうしたんだ?」
 セヴェリの突然の帰郷に、コンラードは眉根を寄せた。彼らの二人のどちらかが戻ってくるときは、大抵いい話をもってこないからだ。
「そうそう。父上。ティーナのことですよ。王都で流れている噂。ご存知ですか?」
 ソファにゆったりと腰をおろしながらセヴェリが尋ねる。
「ああ。知っている」
「知っていて放っておかれるのですか?」
「そうだ。変な虫が寄ってこなくて、助かっている」
 父親の声を聞いたセヴェリは頭を抱えて項垂れた。
 父親と母親の間に挟まれながらちょこんと座っているアルベティーナであるが、いつの間にかお茶とお菓子の準備が滞りなく整っていたため、すぐさまお菓子に手を伸ばす。
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