隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「ヘドマン辺境伯令嬢アルベティーナは、私兵団に交じって暴れている『強暴姫』だ。そんな風に呼ばれているんですよ」
「まぁ」
 と大げさに声を上げたのはアルベティーナ本人だった。ゴクンと口の中に入っていたお菓子を飲み込む。
「そのような噂が立っているのですか? 私、全然知りませんでした。お父さまもお母さまも、何もおっしゃってくださいませんでしたから」
「噂は噂だ」
 コンラードが荒々しく言葉を放つ。
「ですが。なぜ、私が『強暴姫』だなんて。どうしてそんなかっこいい二つ名がついたのでしょうか」
 どうやら『強暴姫』は、アルベティーナにとっては褒め言葉のようだった。
「な。セヴェリ。ティーナはこういう娘なのだ。それに、先ほどもいったように変な虫が一斉に飛び立ってくれて、やっと静かになったところなんだ」
「ですが、父上。『強暴姫』だなんて言われていたら、ティーナの嫁の貰い手が無くなってしまうではないですか」
「まあ。そのときはいろいろと考えてあるから、な」
 コンラードは、意味ありげに息子をじろっと睨んだ。その様子を、アルベティーナは次の焼き菓子を口の中に放り込んで眺めている。
「それで。お兄さまはわざわざ、私にその二つ名を教えてくださるために王都から戻ってこられたのですか?」
 紅茶をコクンと飲みお菓子を流し込んでから、目の前のセヴェリを見つめた。
< 32 / 231 >

この作品をシェア

pagetop