隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「では、セヴェリお兄さま。お願いします」
「それでは、お嬢様。向かいましょうか」
 少しおどけた口調でセヴェリが口にすると、すっと手を差し出してきた。
「はい」
 アルベティーナもはにかみながら、その手をとった。これでは護衛ではなくエスコートではないのか、と思うのだが。
 セヴェリが執事に声をかけ、共に屋敷を出た。この王都にあるヘドマン伯の別邸は、白壁に青錆色の屋根を持つコントラストの美しい屋敷である。入り口から庭園へと続く階段。この階段をおりて庭園を抜ければそこに一台の馬車が準備されており、それに乗り込んだ。馬車はヘドマン辺境伯の家紋がついた馬車ではなく辻馬車である。この辺の用意周到さもルドルフによる根回しなのだろう。
 太陽が西のリシェール山に沈みかけようとしているため、辺りはオレンジ色に染められていた。ルドルフからはあの建物から日勤の騎士達がいなくなる時間帯に裏口から入るようにと指示を出されていたため、辻馬車をそこに停車して二人は降りた。騎士達も口は堅いのだが、万が一に備えての根回しをしておくに越したことはない。
 まだここの騎士団の建物の造りに慣れていないアルベティーナにとって、セヴェリが案内役を買ってくれたのも、非常に心強いものがあった。人目を避けるように裏口からこっそりと建物の中に入り、人気のない廊下を歩く。裏口を始めて利用したアルベティーナだが、この廊下はどこか殺風景だった。つまり、装飾品が何も無いに等しい。奥に続く白い廊下がただひっそりと伸びているだけ。
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