隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 忘れ物。まるで、子供が遠出するときのような聞き方に、アルベティーナはふふっと笑みを零した。セヴェリのおかげで少し緊張が解けてきたようだ。
「はい。大丈夫です。団長からは、護身用の短剣を忍ばせておくようにと言われました」
「短剣だけで大丈夫か? 鞭も隠し持った方がいいんじゃないのか?」
 先ほどからセヴェリの質問攻めが止まらない。それでもアルベティーナは嫌な顔一つせず、丁寧に答えていく。
「鞭、ですか? あまり使い慣れてはいないのですが」
「ほら、足は二本あるだろう? 片方に短剣、片方に鞭を忍ばせておけばいいんじゃないのか?」
「そうですか?」
 兄の言葉に唸るアルベティーナ。レッグホルスターを左の太腿に巻き付けているが、これが両足にとなると、いささか不便のような気がする。
「検討しておきます」
「ああ。気をつけろよ」
 セヴェリがぽんと肩を叩き、笑顔を向けてくる。それは、妹であるアルベティーナを信じきっている笑顔だ。それだけ彼の笑顔には自信が溢れていた。
「では、行くか」
 いつものアルベティーナであれば、セヴェリが同行しなくても一人で外を歩くことも躊躇わないのだが、今日は特別だ。なぜなら今は女性騎士としてのアルベティーナではなく、『強暴姫』というアルベティーナでもなく、どこかのご令嬢であるアルベティーナなのだ。どこかのご令嬢がお供を付けずに一人で外を出歩いていたら、不思議に思われてしまう。できるだけ目立つようなことは避けたかった。
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