セカンドバージン争奪戦~当事者は私ですけど?

2日後、物件の見学に来たのだけれど

「水回りのリフォームは入りますか?」

どうして江藤さんが質問しているのだろう?

「今回はクリーニングのみで入りません。キッチン回りのクロスの張り替えは完了してます」
「さっきのところとどうですか、ゆ…坂根さん?もちろん他の物件を待っても探してもいいですよ」
「あ、いえ…こちらに決めます」

どちらも最寄り駅は同じで出口が違うだけ。部屋の造りもさほど変わらなくて、こちらが僅かに駅に近いからこちらにする。

「ありがとうございます。賃貸契約必要書類一覧はこちらです。ご勤務先もはっきりとしていますし、手続きと平行して、もういつでも入居していただけますよ。書類が揃えばご連絡ください。お昼休みにこちらから坂根さんのオフィスまで伺うことも可能ですから」

なるほど…同じ会社の人が入居するという、身元がはっきりしている状態だとこんなにスムーズなのか。会社の規定で新卒社員には2年間、中途採用社員には1年間、月額2万円の住宅補助が支給されるのでありがたい。そうでないと1時間ちょっとかけてでも実家からの通勤を続けたと思う。

今、記入出来る書類だけ担当者さんに提出して今日は終わりだ。

「江藤さん、終業後にお時間ありがとうございました」
「無事に決まって良かった。この辺りの案内がてら食事にしよう」
「…案内…この辺り、よくご存知ですか?」
「そうだね。結愛、食べたいものある?」

眼鏡を外しながら、何故か吐息混じりにも聞こえる声を私に向けた彼は、道行く人の視線を集めている自覚があるのだろうか?
< 43 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop