俺様男子はお気に入りを離さない
中間試験前になり、私は美術室には行かず大人しく家で勉強する日々が続いた。美術室で勉強すると、御堂くんと過ごした日々を思い出してしまって苦しいからだ。

それなのに――。

放課後、カバンを掛けてそそくさと教室を出ようとした私の背後から「千花子」と呼びかけられて振り向いた。

「御堂くん……」

「お前、なんで美術室(あそこ)で勉強してないんだ?」

鋭い目つきで問われ、ギクリと体が揺れる。
私は最近美術室へ行っていない。
絵も上手く描けないし集中できない。
なにより、御堂くんと美術室で会うことに躊躇いがあるからだ。

「別に。家で勉強したほうが捗るから。ほら、私、成績あまりよくないから」

「俺が教えてやるって言っただろ?」

「そんな毎回迷惑かけられないよ。御堂くんだって自分の勉強があるでしょ」

そうだよ、人にかまってる場合じゃないよ。
私たちはもう高校二年生で来年は受験だし、特に御堂くんはご両親からも期待されているんだから。

「迷惑じゃないって言ったよな」

教室の出入口でコソコソと立ち話をしている私に突き刺さる視線が痛い。

上級生にお説教をくらってから、その噂が広まったのか、クラスの女子からも冷たくあしらわれている。もともと菜穂以外とはそんなに仲がいいわけじゃないからあまり支障はないけれど、それにしても冷ややかな視線は気分がいいものではない。

「御堂くーん、勉強教えてー」

「あ、ほら、呼ばれてるよ」

誰かがそう呼ぶ声に便乗して私はそそくさとその場を去った。

不服そうな御堂くんの顔が視界に入ったけれど、見て見ぬふりをした。ズキリと胸が痛んだのは気のせいということにしておこう。
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