俺様男子はお気に入りを離さない
黙々と作業をしているといつの間にか夕暮れになっていた。パチンと電気が点けられたことによってようやくその事に気づく。
それほどまでに集中していたみたいだ。

「秋山?」

呼ばれて私は顔を上げる。

「まだ作業してたのか? 電気くらいつけろよ」

「沢田くん」

同じクラスの沢田廉くんは、大きなダンボールを抱えながら呆れた顔をして教室に入ってきた。小道具係の沢田くんは別室で作業をしていて、どうやらそちらは終了したらしい。

「ていうか、一人?」

「うん、一人」

「なんで? みんなは?」

「なんか塾とか用事があるみたいで、先に帰ったの」

「はあ? 無責任すぎるだろ? 押しつけられたのか?」

「ううん、違うよ。私は用事がないから残ってただけ」

押しつけ……られたわけじゃないと思う……。高校二年生だもん、みんな忙しいのはわかってるんだ。

でも、一人になると残された感が半端なくて、ちょっぴり切なかったのは事実。

沢田くんはダンボールを置くと、腕まくりをしながら私の隣に来る。何だろうと思って首を傾げると「俺も手伝う」と言って筆を取った。

「えっ! そんなの悪いよ。沢田くんだって作業してきたんでしょ」

「自分のクラスの仕事してるんだから、関係ないだろ?」

沢田くんは何でもないように爽やかに笑い、筆に絵具をつける。

「ここ、塗ればいい?」

「あ、うん。じゃあ沢田くんはこっちから塗ってくれる? 私は反対側から塗ってくね」

「りょーかい」

一番の大物である大きなダンボールには鉛筆で下書きした背景が描かれている。それをなぞりながら塗り進めていくのだけど、これが意外と時間がかかって大変だったのだ。

途方もないと思っていたけれど、沢田くんが手伝ってくれたことで終わりが見えてきた気がする。
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