【大賞受賞】沈黙の護衛騎士と盲目の聖女

 ◇ ◇ ◇


 ユリアナはセイレーナ王国でも屈指の権力を持つアーメント侯爵家の令嬢として生まれた。漆黒の髪と紫の瞳を持ち、傾国の美女とまで称えられた母親の美貌を受け継いでいる。兄弟はいるが年の離れた末娘として、両親の愛情を一身に受けていた。

また彼女は侯爵令嬢として、王国に生まれたふたりの王子達と過ごす集まりの為に、幼い頃から月に何度か王宮に出向いていた。

 黄金色に輝く髪に、深い湖のように澄んだ碧い瞳を持つ聡明な長兄のエドワードに対し、明るい小麦色の髪に琥珀色の瞳をしたやんちゃな弟のレオナルド。王子達の性格は違うが兄弟仲は良く、常に一緒に行動している。

 ユリアナより少し年上の彼らの為に、将来の側近、婚約者候補として年と近い子どもたちが集められた。皆、高位貴族の子息や令嬢ばかりだ。その中でもユリアナは年齢が一番低かったが、内側から輝くような美貌を持つ美少女であった。

けれど、七歳になったばかりのユリアナは見かけによらずお転婆な少女だった。王宮に来ては花壇に隠れ、枝ぶりの良い木にも登ろうとする。けれど登ったところで降りられなくなったところを王子たちに見つかってしまい、レオナルドにからかわれてしまう。

「ユリアナ! こんな低い木なのに降りられないのか?」

 ——もう、レオナルド様は木登りが上手だからって! こ、怖くなっちゃったの!

 言葉にできず震えていると、するすると登ってきたレオナルドが隣に座る。

「俺が来たからには、もう大丈夫だ。ほら、背中につかまって。降りるぞ」
「う、うん」
 
 ユリアナはレオナルドの背に乗り首に手を回すと、彼は来た時と同じようにするすると降りていく。地上に降り立った時には、手を広げて待っていたエドワードに抱き着いてしまう。

「ユリアナ、大丈夫か?」
「エドワード様、……怖かった」

 よしよしと頭を撫でられると、心から安心してしまう。顔を上げて見上げるとエドワードは太陽のように朗らかに笑っていた。

ユリアナは屈託のない性格から、王子達から殊更可愛がられていた。こんな日々がずっと続くといいなと、幼心に思っていた。
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