再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「お疲れ。ごめん、遅くなって」
会社の前に停めてくれた車の助手席に乗り込むと、律は普段どおりにそう笑ってくれた。
「今、来たとこだよ」
急がせたのかな。
無理してないか心配なのは、私の方だ。
でも、「俺のご褒美」と言われてしまうと、無理しないでとは言えなかった。
「大丈夫だって。ちょっと、寄るとこがあっただけ。それより、行きたいとこ、決まった? 」
そうだった。
忘れてたわけじゃないけど、正直二人の会話のことで頭がいっぱいで、食べたいものなんて思いつかない。
「うーん。でも、律のご褒美なんだったら、たまには律の好みで行こうよ。いつも、私のこと優先してくれてるし、たまには……」
そうだよ。
たまには――こんな時くらい、律の希望を聞いてあげたい。
「場所がどうあれ、少なくとも最終的には俺の希望どおりになってるから、気遣わなくていいのに。……あ、ちょっと待ってて」
電話。
なぜか一旦車を降りて、すぐに戻ってきた。
「お待たせ。じゃあ、ちょっと……じゃないけど、付き合ってもらおっかな」
「う、うん」
行き先を言われなかったことで、つい緊張で強張ってしまう。
笑って頭を撫でてくれたけど、律は目的地は秘密のまま発車させた。
「あれから、残業減ったのはよかったけど……やっぱ、中で待っててもらえばよかったな。んー、どっちが安全なんだろ」
「どっちも安全だし、そんなに待ってないってば」
それにもやっぱり、笑うだけ。
どこに向かってるのか気になってドキドキするけど、律が笑ってくれてほっとする。
でも、やっぱり。
(……さっきの……)
気にしてるんだろうな。
吉井くんに弱みを見せないようにしてただけで、律だって傷ついてる。
・・・
「はい。到着」
「……と、到着!? 」
駐車場に入ってから、車を停めてから確認することじゃない。
でも、まさかと思って言い出せなかった。
「そ、到着。からかってなんかないって」
ものすごい顔してるんだと思う。
くくっと笑われたけど、イラッともできない。
だって、まさかこんな高級な――。
「……な、なんで……へ、部屋取ったってこと? 」
「当たり前。お前と来て、食事だけで帰るつもりないよ。ってか、男女、しかも恋人なのに、ホテルに来てなんでってことないだろ」
――そう、その……ホテルに。
「うーそ。そんなんじゃない……とは、完全には言えないけど。ただ、お前とゆっくりしたかったから。……嫌か? 」
「そ、そうじゃないけど……私にはハイクラスすぎて、緊張するっていうか」
何の準備もしてない。
そもそも、こんなところに来ることがあるなんて思ったこともなかった。
「言わなくてごめん。びっくりさせたかったのもあるけど、俺も急に思いついたからさ。……キャンセルする? 」
吉井くんのことがあったからだ。
どう見たって、今の律は元気がない。
せっかく取れた部屋なのに、急いで予約してくれたのに断る理由なんてある?
もし、私がデートの場所を指定していたら、こっそりキャンセルしてたのかな。
「……ううん。行く……」
「ありがと。……俺は絶対、お前のこと裏切らないよ。……ほら、んな、緊張しなくたって。場所がちょっといつもと違うだけでしょ」
(緊張するよ)
――男女、しかも恋人と外泊なんだもん。