再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~





違うって、言えばよかった。
きっと私、これから何度もそう後悔するんだろうな。

でも、とても言葉にならなかった。
声にも、恐らく表情にすらも。


「送るよ」


それに答えることもできないまま、どうにかごはんを飲み込んで。
早く帰らなくちゃと口に運んでは、乾いて震える喉に通そうと弱いお酒と一緒に流し込んだ。


「まだ早いし、大丈夫」

「いつもより、飲むペースも早かったよ? 緊張しちゃってたんでしょ。律に何かされたらどうしようーって」

「そ、そんなこと……」


帰る為だ。
警戒してるって思わせない為だ。
お酒好きなのにまったく飲まなかったら、再会したくなかったって気づかれる――……。


「うそ。ずっとビクビクしてるよ。怒ってないって言ってるのに、そんな怯えなくたって。そりゃあ、小鈴が離れてったのは堪えた。次会えたら、どうしてあげようっても考えた。考えてどうにもなんなくて裏切って、他として、何やってんだろって逆にしんどくなって。で、当たり前のこと痛感するの」


(……馬鹿、しっかりして)


そんなの、気づかれていいじゃない。
気づいてもらわないといけないじゃない。

嫌だって、警戒してるって。


「俺がつい、いじめたくなっちゃうのも。優しくしたいのも。よくなってほしいのも、よくなれるのも全部……小鈴なんだって」


流されないって、決めてるんだってこと。


「あー、ほら。ビクッとしちゃって。そんな怖いかな。それとも……今、昔のこと思い出してるの」


『怖いの。ねえ、怖くなっちゃった? そんな必要ないんだよ。……あ、それとも、もしかして』


「そんな可愛い反応されたら、俺まで思い出しちゃうじゃん? 昔もそうだったなって。小鈴のそれがますます俺を煽るの知ってんのに止まらなくて……小動物みたいに震えちゃうんだよな」


『……期待するの、抑えらんないの? 』


「ま、お前のすることで、俺が煽られないことなんてないんだけど? だからさ、安心して」


安心なんてできない。
安心させようとしてくれるなら、もっと他にあるでしょ。
このまま、帰らせてくれるとか。
なのに、律の声を聞くほどに過去と現在がダブって、脳内を揺さぶってくる。


「何度も言うけど、小鈴に怒ったりしない。長いこと会えなかったからって、恨んでなんかないよ。お前が何したって可愛くなってんの忘れた? 」


頬に触れられて、また、ピクン。


(……律の手、つめたい)


「昔みたい。変わってないの、可愛いすぎんな。怖い怖いって言いながら、真っ赤になってんの最高すぎた……」

「……律……! 」


怖い、怖い。
律が言ったちょうどその時、その言葉が私を占領してた。
見抜かれて更に怖くなって……彼の手が冷たいんじゃなくて、触れられた瞬間に私が熱くなったんだって教えられて泣きそうになる自分が脳裏を過る。


「俺が怒られちゃった。確かに、道端でする話じゃないね。分かってる。俺に送られて、何かあるのが怖いんでしょ。あー、彼氏なのに傷つくな。でも、何にしても女一人で歩く時間じゃないよ」

「大丈夫だっ……」

「だ・め。それにさ、分かんないの? 分かんないふりしてんの? でも……じゃない。だから、かな。俺に着いて来ちゃったんだよ、お前」


『違うの。分かりたくなかった? 泣かなくていいのに……可愛い』


――こわい、こわいって言いながら。


「だって。じゃあ、この可愛いすぎるおてて、なーに」


頬に触れられた手が、いつの間にか。

――私の指先に引っ掛かってる。





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