再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「ほら、行こ」
道端で、手を繋いで立ち止まって。
邪魔そうにしながらも、好奇の目でちらりと見られ、その手に引かれてしまう。
「ま、でも。部屋まだ片づいてないんだっけ。なら、俺のとこ来たらよくない。小鈴のもの置いたままだから、準備もいらない」
捨ててくれたらよかったのに。
それは本心でしかないのに、どうして私は歩けてるの。
「もう、小鈴は。俺のどんなこと、思い出してんの。それが忘れられないのも、嬉しいけど。……俺たちって、それだけだった? 」
「……それ、は」
デートもした。何度も。
他愛ない話だってした。数えきれないくらい。
「今日泊まったからって、無理なら何もしないよ。俺が小鈴との約束破ったことある? 」
約束を破られたことはない。
きっと、一度も。
律の場合、約束を守るのが上手いんだ。
「このへんも痴漢とか出たらしいしさ。怖がらせたいわけじゃないけど、このままお前一人にして何かあったら後悔じゃ済まないよ。それとも、それでもいいくらい俺といたくない……? 」
「……そ、れは」
それは、それは。
(離れた理由、それだけ。それが一番問題)
嫌いになってたら。
本当に、ただ恐怖と嫌悪だけに包まれていたら。
偶然の転勤なんて利用せず、普通に別れられたのに。
(そうだよ。私、そんなにか弱くない)
嫌いなら当たり前。
そうじゃなくても、何となくそうかなって思ったら自分から切り出すことができる。
この前付き合った人だって、お互い何となく付き合ったから何となく別れた。
優しくも、大人しくも、優柔不断でもない。
ない。
ない。
ない。
――なら、どうして。
「お前にとっても、変質者よりは安心でしょ。さすがにね? 」
いるかも分からない、第一私が好みかも分からない低い確率よりも安心できるわけない。
そんな大嘘に、一言も言い返せないんだろう。
・・・
「変わってないでしょ、何も」
律の部屋は、本当に何も変わってない。
怖いくらいあの頃のまますぎて、他のことを考えるのは無理だった。
「……なんで? 」
三年だよ。
部屋の雰囲気が変わっててもおかしくない。
ねぇ、三年なんだよ?
「なんでって……」
ものすごく謎だと思ったのに、律は「逆になんで」って顔して苦笑する。
「あれから、誰も来てないからじゃないの。当たり前じゃん」
――別れて、三年経つのに。
「お前だけだって、何度言ったらいいの。……じゃないな。部屋には入れなくても、裏切ったのは事実だから。だよな、何度も言わないと。ごめん」
「……じゃなくて、どうして」
ほんのちょっと強気が顔を出して、正面を向いて彼を見上げて、しまったと思った時には遅すぎる。
「部屋に連れてきたくなるくらい親密になって、浮気続けたらよかったのにって? そんな酷いこと言うなら、教えてよ。……誰が、どうやったら。お前になれるの」
抱き寄せてすぐ、私の両手首を拘束したくせに。
「だ……から、浮気じゃなくて……」
「じゃないならなに? 遊び? ……にもならないんだよな。楽しくないんだから。んーと、ああ。処理? そうだね。そうかも。でも、何て表現しようとさ」
唇を奪ってから、私を自由にして。
「小鈴じゃないなら、それに意味も中身も、なーんにもないよ。本当にごめん。もうしない。……やっぱ俺、お前だとこうなんのね」
「何もしない」約束を破ったうえに、必要ない約束を重ねて。
「こんな子どもみたいなキスでも、他の誰とのどんなことよりも。比べものにならないくらい興奮してる……」
――「無理に」しないっていう約束を、叶えようとする。