水と油の私達

優しい人達 side 由乃

目を覚めると知らない天井が目に入る。

ああ、私あの男に…

汚い、汚い汚い汚い汚い!

私は必死になって袖で唇を拭く。

唇は切れ、赤い血が滲む。

真っ白だった袖はすぐに真っ赤に染まってしまった。



「汚い、汚い、汚い汚い汚い!汚い…」

「由乃ちゃん!?」

「あ…」



安心できる声のはずだった。

ずっと、待っていた声のはずだった。

ただ唇同士を合わせるというだけの行為。

ただ舌も合わせただけ。

ただ初対面の人とだっただけ。

ただ私にとって始めてのことだっただけ。

ただそれだけのことのはずなのに、私を蝕んでいく。



「由乃ちゃん」




優しく、割れ物を扱うような手つき。

それでも、伸ばされた自分よりも遥かに大きな手に、筋肉質な腕。

それが彼を男だと認識させるた。
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