再会した敏腕救命医に娘ごと愛し守られています
ホテルに戻り、部屋で紗良の服を着替えさせるとあっという間にお昼寝してしまった。
私と未来も服を着替え、ようやくお茶にした。

「斗真、ガッカリしてたね。最初抱き上げた時はすごくいい感じだと思ったけど、最後にあんなオチがつくとはさ」

「でも斗真凄かったね。あんなに多くの人と付き合いがあるんだもん。頑張ってるんだね」

今は彼の働いてる姿を見ることは叶わない。この前の紗良を診てもらった時が最初で最後。だからみんなから声をかけられている姿を見たら、自然と彼の努力が報われているのだと感じられた。

「うん。すごく頑張ってるよ。優里がいなくなって落ち込んでいた時もあったけど、そのあとからは鬼気迫るところもあったもん」

「そんな斗真、信じられない。でも彼なりに努力して今の地位があるんだもん。改めて感心しちゃった」

「でもさ、優里はあの後話をしたの? あの、ほら、紗良ちゃんの話とか」

「ううん。してない。向こうも触れてこない」

斗真は何度会っても紗良の話はしてこない。自分の子なのか、と最初は疑っていたがあれ以来聞かれない。だからどう思っているのかわからない。

「一度ちゃんと話さなくていいの?」

「うん。亜依にも昨日言ったけど、今が幸せなの。だからこのままでいい」

「私はもどかしくてならないの。どう見ても好きあってるふたりなのになんでお互いこの状態でいられるの?」

ハッキリとした性格の彼女には今の中途半端な関係が納得できないのだろう。

「お互い前のようにならないか不安なんだと思う。だから踏み出すのではなく今のままの穏やかな関係がいいんだよ」

「わからないよ。このままの関係はみんな幸せになれないよ。斗真をいつまでも独身で縛り付けておくの?」

そんなつもりはない。けれど考えても見なかった。
いつまでも独身ではいられないだろう。
いつか彼に想う人ができた時、私は2度目の絶望を味わうのだろう。

「斗真だけじゃない。優里にだって好きな人ができるかもしれない。紗良ちゃんのパパにしてあげたいって思う人が現れるかもしれない。そんな時に斗真は優里から手を引けるの?」

斗真からはいつも私を想うメッセージは来るが一歩進むようなものではない。いつも私の傷が癒えるようなものばかりで、この数ヶ月彼と連絡を取るようになったがよりを戻したいと言われるようなことはなかった。
彼は私に対しての愛情ではなくて、紗良に対する謝罪や責任を感じているのだろうか。
それならもう離れたほうがいい。
せっかく癒えた傷がまた開かないように。

「ねぇ、また優里は考えてるでしょ? ダメだよ。本人と話もしないで頭の中だけで完結するのは」

「え?」

「勝手に推測で考えたらダメ。誰の心の中も話さないとわからないんだからね。あの時もっと間を取り持つべきだったという反省から言ってるの。だからキツイかもしれないけど今の話もした。お願い、もっと話し合って」

泣き出さんばかりの未来に胸を打たれた。
確かに今斗真と離れようとしてしまった。憶測でしかない考えだけで。
斗真には未来がある。その未来をどうするのかは斗真が考えること。
自分が傷つきたくないからって先に斗真とまた距離を開けようとしてしまった。
もうあんな思いは嫌だ。
傷つくのは嫌だけど何も解決にはならないんだとわかったはずなのに。
私も涙がこぼれそうになった。
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