夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「団長。お茶が入りました。休憩になさってください」
「ありがとう」
 ランスロットが席を立つと、シャーリーは資料室へと移動する。
(一緒に)
 その言葉がランスロットの口から出ることはない。彼女の今の状況を思えばなおのこと。
 ランスロットは籠の中から、チョコレートでコーティングされたラスクを手にした。
 思えば、いつもこの菓子がある。
 シャーリーはこの菓子が好きだ。きっかけは、何だったか。
 ランスロットは、それを食べながらお茶を飲んだ。シャーリーが言った通り、甘いお菓子と渋めのこのお茶が合う。
(シャーリー……)
 言いたいこと、伝えたいことはたくさんあるが、まだこの状況では口にもできない。
 今はただ、彼女が早く記憶を取り戻してくれることを、ただ願うばかりだ。
「俺は休憩が終わったから、君も休憩にしなさい。菓子はテーブルの上に置いていく」
 ランスロットは籠の中から、チョコレートラスクを手にすると、いつもシャーリーが座る場所にそっと置いた。

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