夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「だが、今の生活は、これはこれで楽しいと感じている。あの頃の君を見ているようで。このような初々しさも懐かしい」
「団長……。ごめんなさい……。本当に、ごめんなさい……」
「君がそう思って罪の意識に悩まされるのであれば、どうか俺のことを名前で呼んでくれないか? 夫婦なのだから……」
 シャーリーの目は潤んでいた。何か込み上げてくる思いがあったのか、必死で涙をこらえているのだろう。
「少しずつでいいから、俺のことを思い出してほしい」
「はい……。ラ……」
 彼女が何か言いかけた時、執務室の扉が荒々しく開かれた。
「おい、ランスロット……。って、お邪魔だったな。すまんすまん」
 もちろん、ジョシュアだ。
 いつの間にか、シャーリーはぱっとランスロットの手を離し、彼の対角線上に姿勢を正して座り直していた。
「ああ、本当に邪魔な奴だ。何の用だ」
 ランスロットはシャーリーの言いかけた言葉が気になっていた。ジョシュアが姿を見せなければ、あの言葉の続きが聞けたというのに。
「今すぐ、片づけます」
 シャーリーはテーブルの上に広げてあった書類を、慌てて手にする。
「いや。ランスロットを借りるだけだから」
「何かあったのか?」
「ま、な」
 そのやりとりだけで、ジョシュアが何をしたいのかはなんとなくわかる。彼は、シャーリーには聞かせられない話をしたいのだ。
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