夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「シャーリー。悪いが俺は不在にする。俺が部屋を出たら鍵をかけて、仕事の続きを。もし、帰宅時間までに俺が戻らなかったら、鍵をかけて帰宅していい。わかったな」
「はい」
 不安な表情を浮かべるシャーリーが頷いていた。

◇◇◇◇

 パタン。
 閉ざされた扉を見送ってから、シャーリーは扉の鍵をかけた。
 しばらく、その場から動くことができなかった。
(団長の手……。怖くなかった)
 書類を確認している最中に、勢いあまって触れてしまった。
 それだけでない。
 彼はそれを謝罪した。不快であったろう、と。
 だが、不快ではなかった。ただの事故のようだと思っていた。
 普段のシャーリーであれば、間違いなく「きゃ」と声を上げて、すぐに逃げ去っていただろう。だけど、先ほどはそうではなかった。
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