夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 書類を確認しながら、なぜかシャーリーは懐かしい気持ちに襲われた。よく、こうやって彼の書類の確認をしていた。勘定項目があっているか、計算はあっているか。

『ランス様、ここ。また間違えていますよ。ゼロが一つ足りません』
『すまない。すぐにゼロを見失ってしまう』
『見失わないでください。ここをこう修正すれば……。ほら、合うじゃないですか』
『ほ、本当だ。やった……、終わった』
『お茶でも飲みますか?』
『ああ、頼む』
 そうやってランスロットは嬉しそうに目を細めていた――。

(え……、今のは誰の記憶?)
 突然、頭の中に浮かんできたランスロットの姿にシャーリーは戸惑いを隠せない。彼は執務室で誰かと二人で書類の確認をしていた。
 その相手が誰かわからないのは、姿が見えなかったからだ。シャーリーは誰かを通してランスロットを見ていた。その誰かが誰であるかはわからない。
 軽くかぶりを振ってから、もう一度書類と向き合った。
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