夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 一時間もすれば、書類の確認は終わる。シャーリーは修正した箇所のメモを書く。
 どこの項目の数値をどう直した。間違いの原因はここでした等の内容だ。勝手に数字だけを修正してしまうと、ランスロットが確認したときに見逃すことを懸念していた。それに、間違いを見直せば、次からは同じ間違いも減るだろう。
 シャーリーは必ず、メモの最後に一言何か言葉を添える。それは指摘ばかりされたら、相手も気分を害すかもしれないという思いがあるためだ。
「お疲れ様です」から始まり、シャーリーでも間違えやすい場所、気を付けているところ、そして疲れているときにお勧めの食べ物など、内容はさまざまだった。
 だけど今日は、彼に御礼を伝えたいと思っていた。それから、わからない書類はそのままにせずに、すぐに相談して欲しいと。
 いつも彼と食事は共にとる。だけど、その場でシャーリーはランスロットには何も言えない。ただ、黙々と手を動かすだけであった。
 ランスロットは「今日はどうだったか」「何か不便なことはないか」と毎回同じようなことを聞いてくる。それに対してシャーリーは「はい」か「いいえ」、もしくは「不満はありません」でしか答えられなかった。
(団長が悪い人ではないこと、わかってはいるけれど……)
 それでもランスロットとシャーリーには十歳の年の差がある。だから、言いたいことが言えないときもある。そこに男性恐怖症が重なれば、言いたいことは言えない。
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