夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 だから、こうやってメモにするのだ。
 そのメモを書いていたペンの動きが止まる。
(私だって、好きで男性恐怖症になったわけじゃない)
 止まった場所で、ペンがインクの滲みを作っていた。

 シャーリーは生まれながらにして男性恐怖症だったわけではない。もちろん、そうなったきっかけがある。
 母親と馬車で出掛けたときに、暴漢に襲われた。金目の物を狙っている彼らは、よく馬車を襲う。そうならないように、馬車で出掛ける時は護衛をつける。だけど、その護衛の者も仲間だったのだ。むしろ、彼が裏切り者だった。
 そのときのコルビー家にはまだお金があったため、身代金目当ての誘拐を企んでいたようだ。
 信頼していた護衛の者に裏切られた。それだけでなく、シャーリーはまだ成長段階の身体を不躾に触られた。彼女の発育を確認するかのように。
 そしてシャーリーをどん底に落としたのは、この事件がきっかけで母親が命を失ってしまったこと。
 このときの恐怖と嫌悪感により、男性全てが怖くなった。
 まともに話ができるのは、父親と弟たちだけ。使用人であっても、彼のような裏切りがあるかもしれないと思うと、近づくことができなくなった。
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