夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「だが、事務官も人手が足りない。悪いが君は、俺の専属事務官として復帰してもらう」
 ひゅっとシャーリーが息を呑んだ。その音はランスロットにまで聞こえていただろう。だが彼は表情を変えるようなことはしない。
「ウェスト事務官には、君を俺の専属からは外すように頼んだのだが、そうなると俺専属が不在になると言われた。そうなると、俺は困るし、事務官たちも困るらしい」
 なぜ他の事務官も困るのか。その理由をシャーリーは考える。
「あ。団長は、会計類の書類の提出が遅いから……」
 心の中で考えていたはずなのに、つい声に出てしまっていたらしい。ランスロットは苦笑している。
「まあ、否定はしない。だが、一応締切は守っているつもりだ」
 締切を守っているランスロットであるが、そこからの確認と修正に他の人の倍以上時間がかかる。それを確認するのが事務官であるため、専属事務官が不在になったとしたら、事務室で最終確認をする事務官たちの負担が増える。
 そこで間違いがあったとしても、ランスロットに間違っていますと面を向かって言えるような人物の心当たりは、アンナしかいない。となれば、アンナの負担が増える。
 彼女がそのままシャーリーにランスロット専属の事務官でいて欲しいと思っていることは、つまりはそういうことだ。
「ですが、私は団長に近づくことはできません」
「俺の執務室に常駐していなくていい。扉続きの隣の部屋に君の机を準備する。君の居場所はそこだ。俺が困ったときに、助けてくれればそれでいい。いつものようにベルを鳴らす。テーブルの上に書類を置くから、それを持っていって、隣の部屋で確認してくれればいい。そうすれば、俺に近づく必要はないだろう?」
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