夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 事務官の制服を着ているシャーリーである。彼女のこの姿を見るのは、ランスロットにとっても数十日ぶりだ。普段の簡素なドレス姿は可愛らしくて好きであるが、この制服姿は彼女を艶やかに見せる。
「あの……。シャーリーです。本日からお世話になります」
 扉を開けたまま、彼女はその場で頭を下げた。だが、ジョシュアに気づいたようで、そこからピクリとも動こうとしなかった。
「シャーリー、扉を閉めて中に入って来てくれ。それから、君の机は隣の資料室に準備した」
「ありがとうございます」
 もう一度頭を下げたシャーリーは、部屋の壁際を進みながらも、その真ん中で立ち止まった。それはジョシュアがじっと彼女の動きを視線で追っていたからだ。そうなれば、さすがに彼女も何か言わなければならないと思ったのだろう。
「あの。本日から事務官に復帰しましたシャーリー・コルビーです」
 彼女はジョシュアに向かって腰を折る。
「あ、うん。私のことは気にしないで。たまにこうやってランスのところに息抜きに来るだけだから」
 ジョシュアは笑いを堪えていた。堪えようとしていたが、堪えられなかったらしい。最後は笑っていた。
 シャーリーは困った様に苦笑を浮かべている。
「シャーリー。ジョシュアのことは気にするな。とりあえず、資料室に君の机はある」
「はい」
 シャーリーは壁際を歩きながら、資料室へと向かった。
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