恋人持ちの第五王女は隣国王子との婚約を解消したい



「慕う方……」

「はい。だから、この婚約を解消したいのです。あなたに不満がある訳ではありませんが、もしあなたが乗り気でないのであれば、あなたから私を振ったことにしていただけませんでしょうか」

 なんということだろう、渡りに船とはこのことだ!
 私は嬉しくて、今なら死のダグラス河であっても平気で対岸まで泳ぎきれそうな気持ちになった。

「はい、是非。私も実は、慕う方がいるのです」
「……なんと、そうでしたか。では、あなたの方から先にご両親に、婚約は無理だと伝えてください」
「いいえ、それでは一方的な婚約破棄になってしまいます。お互いに相性が悪かったということで、円満に婚約解消致しましょう。
私達が結婚しなくても叔母上達が両国の仲を取り持ってくれるとはいえ、婚約破棄では両国の関係にヒビが入りかねません。私達二人で断固として嫌がって、婚約解消に持ち込みましょう」

 私は婚約破棄どころか、駆け落ちして逃げようとしてたのだが、そんなことはつゆほども見せずにしれっと宣う。
 私の言葉に、王子殿下は安心したように息を吐いた。

「三日前にこの国に着くなり婚約だと聞かされた時は、どうしようかと思っていました」
「私もです。でも、両親たちは、私の意見を全く聞いてくれなくて」
「私の方もです。散々断っても、会ってみたら大丈夫の一点張りで、何か企んでいるようだったんですよね。何を考えているんでしょうね?」

 首を傾げる王子殿下に、私も同じく首を傾げる。

「まあいいではありませんか。無事、婚約解消できそうなのですから」
「そうですね。ファイローニア殿下、感謝します」
「はい、私も感謝いたします、エドヴァルド殿下」

 そう言って笑顔で別れた王子殿下は、急ぎの用事があるとかで隣国にとんぼ帰りした。
 私は王子殿下に会った当日、両親に対して、王子殿下との相性が悪いので、この婚約は解消したい旨を伝えた。
 王子殿下も、それを了承していると。

 両親は、怪訝な顔をしながら、お前がそう言うなら……と了承してくれた。
 数日前に成ったばかりの私たちの婚約話は、まだ公にされていなかったので、きっとなかったことになるのだろう。

 そうやって安心していた数日後、エンジェルスガルド王国から返事が来たと、両親に呼び出された。

「ファイローニア、向こうはこの婚約解消に同意しないそうだよ?」
「えっ」

 何、聞き間違い? どうしたことだ、なんでそうなった。
 向こうの国では、エドヴァルド殿下本人の意思は無視されてしまったのだろうか。

「お父様。でも私、ちゃんとお互いに納得済みで婚約解消しようって、エドヴァルド殿下とお話ししたんです!」
「可愛いフィー、よく聞きなさい。婚約継続は、エドヴァルド殿下のたっての希望らしいんだ」

 お父様の言葉に、ガンと頭を殴られたような気がした。
 私が1週間前に会ったあの王子殿下はなんなの? 偽物だったの? ……好きな人がいるって言ってたじゃないか!

「そんなはず……そんなはずないです。だって、ちゃんと……」
「フィーは一体どんな話をしたんだい?」

 両親の困ったような顔に、私はじんわり涙が浮かんでくるのを感じる。
 何なのあの王子、期待させておいて。嘘つき嘘つき嘘つき!!!


 この瞬間、私は、エドヴァルド第六王子殿下のことを、この世で一番大嫌いになったのだった。


< 5 / 15 >

この作品をシェア

pagetop