恋人持ちの第五王女は隣国王子との婚約を解消したい

2 第六王子の裏事情



 俺はエンジェルスガルド王国の第六王子、エドヴァルド=エルク=エンジェルスガルド。
 十五人もいる王子王女の中でも終わりの方に生まれたので、王位継承権はあれども、王位が回ってくる可能性はほとんどない。
 そんなふうだから、両親も側妃の義母達も兄様姉様達も、俺を玉のように可愛がっていた。正直ちょっと鬱陶しいぐらいだ。

 ただ、俺は外国語が得意で、いろんな国に興味を持っていたから、父様や兄様達がよく、視察で外国に行くときに常に一緒に連れて行ってくれた。もし俺が王女だったら、危ないからと連れて行ってくれなかった国も多かっただろう。こういうとき、男に生まれてよかったと思う。


 そして十四歳になったあの日、俺は運命の出会いを果たした。


 赤い髪に、深い緑の目の、二歳年下の可愛い女の子。
 ニアと名乗る彼女は、下町に馴染むような質素な服を着ていたが、その立ち居振る舞いは貴族のものだろう。指も綺麗で、平民の手ではなかった。

 スリから助けてくれた彼女を見て、心惹かれるものを感じた。このまま別れてしまうのは惜しい。もっと話をしてみたい。

「なら、君が案内してくれ。俺はよその国から旅してここに来てるんだ」

 それだけ言うと、ついそのまま背を向けてすたすた歩き出してしまった。

「案内しろって言うのに、そっちが先に歩き出すの?」
「……それもそうだな。言い換えよう。お礼に飯を奢るから、この国の話を聞かせてくれ」

 自分でも何を言っているのだと思った。何故だか分からないが、気持ちが浮ついていて、支離滅裂だ。なんだか鼓動が早すぎて心臓が痛い。心音とはいえ、こんなに大きいと、彼女にも聞こえてしまっているんじゃないだろうか。

「それってナンパ?」
「……そうかも」
「ふーん」

 嬉しそうに俺の周りをくるくる歩く彼女に、俺は心を掻き乱されながらも、平静を装う。

「大通りに面したお店ならいいわ。行きましょう」

 天にも登る気持ちだった。
 嬉しくて、なんだか沢山自分の国のことを話してしまった。話をしている間も、彼女は興味深そうに楽しそうに合いの手を入れてくれる。
 店を出てからも、王都の自慢のお店とか、ちょっとした串焼き屋とか、名物の王都公園とかを案内してくれて、随分な時間を一緒に過ごしてしまったはずなのだが、彼女といると時間が過ぎるのを矢のように早く感じた。


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