無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
「ここじゃできない話だから移動しよう」

 今日じゃなくていいと言ったのに、今から話すつもりなのだろうか。
 彼に左手の手首を力強く掴まれた私は、わけがわからず息が止まりそうだ。

「四方さん、どのみち今夜は中止でしたし、このまま解散でいいですよね?」

「ええ。私のことはお気になさらないで。志賀さんこそがんばってくださいね」

「当然です。逃がしませんよ」

 会話の内容がまったくわからない。
 ふたりは他国のスパイかなにかで、ボスからミッションでも課されているのだろうかと変な妄想をしてしまいそうだ。
 志賀さんは軽く会釈をし、私の手首を掴んだまま、近くに停まっていたタクシーに私を乗せた。

「どこに行くんですか?」

「きちんと話ができる場所。そうしないと、すぐに逃げようとするだろ?」

 たしかに今までの私は志賀さんのことになると怖気づいて、気が付いたら逃げ出していた。
 好きな相手だからこそ、向き合わなければいけなかったのに。

 タクシーを降りた志賀さんは、今度は手首ではなく私の手を握って歩みを進める。
 入った場所はスタイリッシュなマンションのエントランスだった。

「ここは……?」

「俺の家」

 繋がれた志賀さんの手に力が込められた。
 もう逃亡する気はないけれど、私はそんなに信用がないのだろうか。

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