今夜も君を独り占め。
女性社員に背を向けたまま,碧の肩を出来るだけぞんざいに押す。
碧は面白くなさそうな顔をしていた。
頼むから,余計なこと言うな。
じっと見つめると,ふぅん? と俺を見つめ返し,ひょこっと俺の背から顔を出す。
「初めまして。篤の"知り合い"です。こいつ迎えに来ただけなんで,失礼しますね」
にっこりと,天使の方の笑みを社員に向ける碧。
横から見ている俺には,イラついてる様にしか見えなくて。
そっとこめかみに手を当てた。
「わっ」
と小さく声が聞こえる。
顔だけで振り向けば,微笑みかけられたその人が,両手で口元を覆っていた。
まさか俺に隠れていた人間が,こんな美形だとは思わなかったのだろう。
僅かに頬も紅潮していた。
それを見ると,流石に俺も機嫌が悪くなる。
けれど咄嗟に手を口にやったらしい彼女は,自身のレザーバックから渾身の一撃を受けていて……
腹部を押さえながら,俺達を見向きもせずに走り去って行った。