悪役令嬢ふたりの、のほほん(?)サバイバル暮らし
沈黙を破ったのは、アルベルティーヌの感極まったような声だった。
「パメラさん……、わたくしのことを、そんなに真剣に思ってくださっていたのね……。わたくし、こんな素敵なお友達と出会えて本当に嬉しい……」
「えっ!? ああ、まあ……。……わたくしたちお友達ですものネッ☆」
パメラは取り繕った笑みを浮かべた。
もちろん、パメラの一連の言動はアルベルティーヌを思ってのことではない。パメラはより快適な衣食住の確保のため、――要は全て自分のため――、一世一代の賭けに出ているだけである。
――まあ、ちょっとだけアルベルティーヌさんがいなくなったら寂しい気がするのも、認めてあげないこともないですけれど!
こちらに関しては、持ち前のツンデレのせいで、少々複雑なようだ。
アルベルティーヌは少し潤んだ目をそっと拭ったあと、上品にため息をついた。
「わたくし、ダメね。お国のためと言われてしまうと、どうしても決心が鈍ってしまいそうになるもの。でも、パメラさんの仰ることを聞いたら目が覚めましたわ」
「あ、アルベルティーヌ……」
なおも食い下がろうとして伸ばされたロバートの手を、アルベルティーヌはあっさり払う。
「ファーストネームで呼ばないでくださる? わたくしたちはもう他人同士ですもの」
「そ、そんなぁ!」
「あ、そうそう、先ほど殿下はわたくしが可哀想だと仰っていましたけれど……うふふ、この生活、意外と気に入っていますのよ? 少なくとも、あのミニュエットとかいう女とイチャイチャしている殿下を横目に公務をこなす生活よりは、充実していますの」
「待ってくれよ。もう一度、もう一度僕にチャンスを……」
「殿下、これで失礼しますわ。わたくし、これから野ブドウのジャムを作らなくてはいけませんの」
「……あ、アルベルティーヌぅう!」
「さあ、パメラさん行きましょう」
アルベルティーヌはこの上なく美しいカーテシーをして、麗しい笑顔で笑うと踵を返す。
パメラはこれ見よがしに勝ち誇った顔をして高笑いをしながら、アルベルティーヌのあとに続いた。さすが悪役令嬢、最後まで人の気持ちを逆なですることに余念がない。