囚われのシンデレラーafter storyー


「佳孝さんがモスクワに来てくれる頃に、急遽、打ち合わせで一週間くらい日本に戻らなくてはいけなくなっちゃって。いろいろ準備してくれていたのに、本当にごめんなさい!」

もう、一息に言ってしまった。

モスクワで、一緒に巡りたいところなんかをつい昨日まで二人で相談していたりした。

なのに――。

考えれば考えるほどに、寂しい。

ぎゅっとスマホを握りしめる。
佳孝さんの声はすぐには返ってこなかった。
だから余計に胸がズキンと痛くなった。

「本当に、何と言ったらいいか――」
(……仕事なんだろ? それなら仕方ない。当然、仕事の方が大切だ。あずさのような仕事は特にな)

佳孝さんの優しい声が、余計にまた胸を刺激する。

(会いに行く日は、変更すればいいだけだから)
「でも、せっかくの長期休暇だったのに」
(モスクワなら3時間ちょっと。いつでも行ける。なんなら、普通の週末でも行こうと思えば行けるんだ。そんなに気にするな)
「レストラン、予約……してくれたんだよね」
(予約なんて、電話一本だよ。全然。大したことじゃない。そんな声を出すな)

私のせいなのに。
私の方が大きい溜息を吐いてしまった。

(会えないのは、仕事だから。お互い様だろ? 先月、俺だって仕事のせいで会えなかった。これからもこいういうことはある。そこはお互い協力して、会える日を見つけて行こう)
「……うん。ありがとうございます」

でも、やっぱり。
佳孝さんの声が、私を落ち着かせてくれる。

(今が一番大切な時期なんだろ? 俺の事を気にしたりしなくていい。自分の仕事のことを一番に考えていいんだ。せっかく掴んだチャンスなんだから)

会いたい。
すごく会いたい。

(俺が、あずさの一番のファンだって言っただろ? 頑張れよ)
「……はい。頑張ります」

ここに佳孝さんはいないのに、まるですぐ隣にいてくれるみたいな、包み込むような声。

(大丈夫。俺があずさの空いている時間を見計らって会いに行くから。どうせ、そう我慢もできないに決まっているんだ)

冗談ぽく笑ってくれるから、電話を切る頃には私も笑っていた。

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