囚われのシンデレラーafter storyー


9月中旬――。

松澤さんとの約束の2時間ほど前に、事務所に呼ばれていた。

「――松澤さんは、今はパリを拠点に活動していて、東京の音大でも指導しているから日本とパリを行き来している生活なの。多忙を絵に描いたような人。海外生活が長いから、とにかく――基本、俺様タイプだから」

事務所の応接室で向き合い、植原さんから松澤さんの人となりについてさっきから指導を受けている。

海外生活と俺様は関係あるのだろうか――。

なんてことが少し気になったが、植原さんの説明にじっと耳を傾け、大事なことはメモを取る。

「日本人離れしたガタイの良さも相まって、ものすごく威圧感があるのよ。それに、超自信家!
まあ、それくらいじゃなければ、世界のオーケストラの指揮なんて出来ないわけで。すごく厳しいよ。言葉は辛辣だからそこは覚悟しておいて」
「はい。大丈夫です」
「――で、ここからが本題なのだけど。一つ、気をつけてほしいの」
「え……?」

ここから? 気をつける――?

その言葉に、思わず顔を上げる。

「あの人、女の噂には事欠かない。これは、この世界では有名」
「え……っ。それって、もしかして、セクハラ……とか、そういう……?」

怯えた目で植原さんを見つめる。
詳しくは知らないけれど、立場の強さからそういう関係を強要されるようなこともあるとかないとか、小耳にはさんだことがある。

「ああ、違う違う。そっち系じゃない」

植原さんが大きく手を振って笑った。

「違う。逆なのよ」
「逆?」
「ソリストの方が、彼に惚れてしまうの。それはもう、沼に嵌まるように」
「……え?」

植原さんが身を乗り出し、私をじっと見つめて来た。

< 139 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop