囚われのシンデレラーafter storyー


「瑠璃、どうしたの? そっち、早朝でしょう?」

どうしてもこの声は高くなってしまう。

(そう。いつもより早く目が覚めちゃってさ。有紗、元気かなって電話してみた)
「そうなんだ。ありがとう。ちょうど今、人と話しがしたいって思っていたところなんだよ」

久しぶりの日本語。なんだか泣きたくなる。

(あれ、もうホームシック?)
「そんなんじゃないけど。思いっきり日本語が喋れるだけで、身体が解放される」

そう言うと、瑠璃が笑った。

(でも、西園寺さんがいるじゃない。日本語で会話しないの?)
「ううん。全然。日本語、話させてくれない」
(厳しいね。でも、有紗を鍛えようとしてくれているんじゃない? 甘くしてくれることだけが優しさじゃないし。どう考えたって、パリの方が有紗にとっては厳しい環境なんだから。そこで上手くやれるようにって考えてくれてるんだよ)
「そうか……」
(いい上司じゃない)

瑠璃の言葉に、どこか納得する。
冷たいわけじゃない――そういうことなのかもしれない。

「うん」
(――でさ。昨日、ちょっと見ちゃったんだけど)

瑠璃のトーンが変わる。女同士の会話をする時の、少しねちっこい声。

(――黒川君が秘書室の女と二人でいるところ)

黒川……。黒川慶一郎(くろかわけいいちろう)、私の元カレだ。

「……別に、私にはもう関係ないし」
(分かってる。だからこうして有紗に報告しているんじゃない。すっきりきっぱり別れたんでしょう?)

パリ赴任直前に別れた。
赴任が決断させただけで、とっくに二人の関係は冷めきっていた。

(相変わらず、手が早い男だよね。いくらなんでも速攻すぎるでしょ。それも、秘書室のまた綺麗どころ)
「いいんじゃないの? フリーなんだから何をしようと」
(さすが、有紗。カッコイイ)

未練なんてものはない。ただ、ほんのわずかな虚しさを感じるだけ。

「男なんて、そんなものでしょ」

結局は、男なんて自己顕示欲と性欲に支配されている。
綺麗な女を連れているという快感と、性欲を満たすこと。
頭の中はそれだけだ。

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